

作品紹介ができる余裕もいよいよ無くなってきた! そんな中で、もう少し、ワールドシネマを。
2年前のコンペティション部門に、『見まちがう人たち』を出品してくれたのが、チリのクリスチャン・ヒメネス監督。彼の2年ぶりの新作『Bonsai 〜 盆栽』は今年のカンヌ映画祭「ある視点」部門でプレミア上映されましたが、東京も追いかけます。
何と言っても、『Bonsai 〜 盆栽』の誕生のきっかけは、2年前の東京国際映画祭にあったのです。2年前、同じくコンペ部門のフランス映画『エイト・タイムズ・アップ』の主演女優にしてプロデューサーのジュリー・ガイエさん(見事、主演女優賞を受賞)とヒメネス監督が東京で意気投合して、『Bonsai 〜 盆栽』の企画がスタートしたのでした。もちろん、ジュリー・ガイエさんは本作のプロデューサーにクレジットされています。
こういう展開は映画祭冥利に尽きるというか、ちょっと他に例えようのない嬉しさです。映画祭が製作者たちの出会いの場として機能し、その結果が具体的な映画の形を取って目の前に現れるという、手に取るような実感。それは感動的で、そして重いですね。
さて、『見まちがう人たち』は、現代社会にふり回される市井の人々をセンスよく描いた群像劇でしたが、『Bonsai 〜 盆栽』も過去と現在を上手く行き来して、テンポのよい場面と時間の転換が上手いです。恋愛を軸にした青春映画ではあるけれど、小説家志望の青年を主人公にして「物語」とは何かを問うテツガク的なテーマもいい。ホロ苦く、内省的で、落ち着いた、フランス映画テイストのチリ映画。外国語としても定着している「ボンサイ」が何を象徴しているか、ご覧になって確認してみて下さい。是非!
脚本うまいな! と唸ったのが、『ティラノサウルス』。前のブログで紹介した『サブマリン』に出演しているパディ・コンシダインが本作では監督をしています。主演は、ケン・ローチ作品(特に『マイ・ネーム・イズ・ジョー』ですね)の印象が強いピーター・ミュラン。
冒頭から、ピーター・ミュランの荒れきった様子が描かれます。底辺の生活に完全にやさぐれており、酒が欠かせず、自分の怒りをコントロールできない。つまりは、自己崩壊寸前。そんな彼が、ある女性に出会い、崩壊一歩手前で何とか踏みとどまることができそうな、希望をつかみかける。が、一転して映画は意外な方向に向かう。驚くべき展開に、感動的なラスト。
91分。非常に計算された、隙のない、見応えのあるシリアスな人間/人情ドラマにして、エンターテイメント性も備えている。人物描写が丁寧で(実際に主要な人物は3人くらいしか出てこないので、徹底的に彼らを掘り込んで行く)、そして胸を打つ脚本。サンダンス映画祭で絶賛されたのも納得の逸品です。
© CHANNEL FOUR TELEVISION/UK FILM COUNCIL/EM MEDIA/OPTIMUM RELEASING/WARP
あー、ワールドシネマもキリがないなあ。ベルトラン・ボネロとブリュノ・デュモンは僕がここで薦めるまでもないかな? でも一言だけやはり書きますね。
ベルトラン・ボネロ監督『ある娼館の記憶』は、20世紀を迎えたばかりのパリの売春宿で暮らす娘たちの話。売春宿というよりは、文化交流の場というか、文化そのものとして定着していた(ように見える)ことから、江戸の吉原の世界に近いのかなと僕は思っています。ズバリ、青春映画です。しかも、特上の。
娼館で若い女性たちが寄り添いながら、助け合いながら生きている。男性から崇められてはいるものの、虐げられ、傷つけられることもある。彼らは、時代の替わり目に翻弄される哀しいヒロインたちである一方で、悩み、怖がり、笑ってはしゃぐ、という現代にも通じる若い女性たちの普遍的な姿でもある。娼婦たちの青春が、痛みを伴いながら時代を超える…。
デカダン調の画面、まるでルノワールの絵画から抜け出たような衣装と美術と照明を備えた映像が素晴らしい。そして、女性達の集団劇を、娼館という閉じられた小宇宙の中で(キャメラはほとんど屋外に出ない)さばく監督の演出手腕が冴えまくっている。ただただ、必見。
© Les films du lendemain, My new Picture
鬼才ブリューノ・デュモン監督の『アウトサイド・サタン』。これは「コア層」向けな作品ですが、一般の映画ファンにこそチャレンジしてもらいたい作品。問いはあるが、答えはない。感じるままに、映像の中に身をゆだねるのみ。
映像が息をのむほど美しい。特に、今回はピッカピカの35mmニュープリントで、先日チェックしましたが、超美麗プリントでした。もはや、この作品に限らず、映画全般において、フィルムの美しさを拝む機会は、今後そんなに巡ってこないかもしれません。フィルム至上主義者の方、本当に楽しみにして頂きたいと思います。
フランス北部の海岸沿いの村。その郊外の森に住み着いた、奇妙な男。その男の世話を焼くようになる、地元の女。どうやらその男は不思議な力を持っているらしい。女の周りで人が死ぬ。しかも、女が嫌っていた人間が。果たして男は何者なのか。
宗教を介在した善悪や人間性への問いかけは、ブリュノ・デュモンの映画に常に存在するモチーフでしょう。デュモンの世界観は、美しい映画を観る至福へと観客を誘うとともに、形而上的思考を巡らす刺激に満ち満ちています。ひたすら、美しい。
がらりと変わって、『ザ・パワー・オブ・ツー』。ボネロもデュモンも純然たる「作家映画」ですが、本作は、全く毛色の違うアメリカのドキュメンタリーです。
アメリカの双子姉妹が、いかに難病と格闘し、克服したかを描く感動のドキュメンタリー。と書いてしまうと、陳腐に聞こえてしまうでしょう! ここで引いたあなた、ちょっと待って!
待ってほしい理由その1:とにかく明るい! ハンパではない難病なのに、明るい! それは、ポップなセンスで記録フッテージをコラージュした映像作りが楽しいのもあるのだけど、同じ病を持って、支え合って生きる姉妹の姿がひらすら前向きで明るいから。実際、絶望的な状況で、物心ついたときから入退院を繰り返し、同じ病気の友人たちが周りでどんどん死んでいく。それでも、希望が失われることはないのだ。
待ってほしい理由その2:姉妹はアメリカ人だけど、父がドイツ人で、母親は日本人。なので、日本とも縁が深く、我々は、あっと言う間に親近感を持ってしまいます。でも、彼らが抱える難病の治療法として、臓器移植が最も有効な手段として取り上げられますが、残念ながら日本における実施率はアメリカに比べると著しく劣っているようです。自分の知らない日本を発見し、あらたな意識を持ってみるのもいい。
待ってほしい理由その3:感動の総量がすごい。証明するエピソードをひとつだけ。この作品の日本語字幕制作をお願いした会社では、担当者たちが涙を流し過ぎて画面と字幕のチェックができなかったそうです。さきほど、報告を受けました。
待ってほしい理由その4:困難の中の「いのち」の価値を考える。まさに、今年、観たい作品であるはずです。
©Twin Triumph Productions, LLC
映画祭プログラミングD
矢田部吉彦
1966年、仏・パリ生まれ。小学生時代を欧州、中学から大学までを日本で過ごす。大学卒業後、大手銀行に就職。在職中に留学と駐在でフランス・イギリスに渡り、その間年間300本以上の映画を鑑賞し続け、帰国後、海外から日本に映画を紹介する仕事への転職に踏み切る。以後、映画の配給と宣伝を手がける一方で、ドキュメンタリー映画のプロデュースや、フランス映画祭の業務に関わるように。2002年から東京国際映画祭へスタッフ入りし、2004年から現在まで上映作品の選定を行う作品部の統括を担当。2007年よりコンペティションのディレクターに就任。
矢田部さ〜ん
『アウトサイド・サタン』はブリュ・デュモン監督ですよ〜!
かなりお疲れですね〜ぇ、がんばってください。
『フランドル』から気になっていた監督なんで超期待してます。