▲アン・リー監督を迎えに行く車の車窓から…
アン・リー監督と主演のタン・ウェイが、『ラスト、コーション』ジャパンプレミア出席の為に再来日した。アン・リーは午後3時、タン・ウェイは夕刻の便での成田入り。
アンは成田に着いたとき、まだヒース・レジャーの悲報を知らなかった。
到着ロビーからリムジンが待つ車寄せまで他愛の無い話を重ねながらも、僕はどのタイミングで話を切り出そうか迷っていた。傍らのブリーフケースの中には、フォーカース・フィーチャーズのジェームズ・シェイマス代表から託されたレターを忍ばせてある。
荷物とともにアンと彼のアシスタントのデイヴィッド、出迎えの僕と藤生取締役が乗り込み、リムジンが車寄せを滑り出したとき、僕は「ジェイムズからあなた宛の緊急の手紙を預かっている」と一言云って、前の座席に腰掛けていたアンの肩越しに手紙を差し出した。アンが手紙を開く音がした。次の瞬間「おぉっ!」と、静かだが唸るような声がして、しばらく沈黙が続いた。重苦しい空気を割って、アンが「君たちは知っていたのか?」と聞いてきた。僕は彼より先に知ってしまった罪悪感で申し訳けない気持ちになって、「Yes」としか答えられなかった。その後も、アンはしばらく口を固く閉ざしていた。
アンとディヴィッドは3か月程前に、『アイム・ノット・ゼア』のプレミアで会ったのが、ヒースとの最後だったそうだ。普段から不眠症で睡眠薬に頼っていたから、すごく心配していたのに、と云ったのはデイヴィド。責任感が強くて、すごくピュアな奴だったからね、とも云っていた。
ヒース・レジャーという俳優の内包されていた演技力を開花させたのは、アン・リーだ。前の座席で言葉も無く車窓の宙を見つめている巨匠は何を思っているのだろう。胸が締め付けられる想いだ。
『ブロークバック・マウンテン』でも、『Candy キャンディ』でも、愛する者を成す術も無く見送るしかなかった男の悲愴を演じていたヒース・レジャー。そのラストシーンの表情が、いまのアン・リーに重なって仕方ない。
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