午前中、特に気を引く作品が見当たらない僕たちは、ヴェネツィア本島を訪ねる事にした。仕事で来ているのに何て潔い!、じゃなくて辱い! 判断を下してしまったことよ……。
実は映画祭が開かれているリド島にホテルをとったのは今年が初めてで、これまではずっと本島の某ホテルが定宿だった。そのホテルの側にあるトラットリア・ダ・アルトゥーロ“Trattoria da Arturo”(San Marco 3656, calle degli Assassini 30124 Venezia / Tel 041.5286974)にどうしても行きたくて、タイミングを見計らっていたのだ。昨晩田中裕子の口から「明日はそれほど重要な作品の上映が無くて…」の言葉が出て来たときは、頭の中で思わず指を鳴らしてしまった。ここのパスタは、ヴェネツィアいちの美味しさだと思う。創業30年、エルネストさんがずっと守り通してきたこだわりの名店なのだ。3年前、田中裕子と辺りを散策していたときに偶然見つけてから、毎年訪ねている。
この日僕が注文したのは、焼き野菜のアンティパスタ、マッシュルームとジャガイモのクリームソースの煮込み、ゴルゴンゾーラのスパゲッティー。どれも美味しいけれど、特にパスタの茹で加減が絶品。簡単にアルデンテなんて云うけれど、言葉や文字で表現するのはなかなか困難な事。イタリア本国でも、もう少し芯が固ければ完璧なんだけどなぁ、と思う事が少なくない。逆に東京のイタリアンだと固すぎたり…。でもここは完璧! 完璧としか言いようが無い。
なぜか昨年までは英語が喋れなかった店主のエルネストさん(写真左)と息子のハニさんが、今年は片言話せるようになっていて、数日前までオーストリアとシシリーをめぐった旅の話を2人で交互に聞かせてくれる。彼らの話の細部は良く判らないけれど、何でもシシリーは当然のごとくマフィアがどの商売にも絡んでいるんだけど、高速道路だけは彼らの手が及ばずに無料で利用できるとかなんとか云っていたような。なんでそんな話をするんだろう?
またこの店にはアルベルト・ラトゥアーダやディノ・リージなど往年のイタリア映画関係者が多く訪れ、特にマルチェロ・マストロヤンニはヴェネツィアを訪れる度に、必ずこの店に立ち寄っていたらしい。しかも僕が腰掛けているベンチが、まさにマルチェロの指定席だったとか云われて、かなりご機嫌さんになってしまった僕でした。
食事を終えた僕たちは再びリドに戻り、2本ほど映画を観るが、昨日ほどの元気も根気も無く、上映中に何度も気を失う。一本の映画が、まるでシマ性健忘症のごとく、断片的な記憶しかない。
午後8時、初期のウォン・カーワイ作品や弊社の『パーティ★モンスター』、『キャンディー』『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー(仮)』を手がけてきたフォルテッシモ主催の“Syndromes and a Century”のパーティーに出席。着席式のパーティーだったので一瞬怯むが、本ブログネタの為(!?)に勇気を振り絞って席に着く。
こういうパーティーは同じテーブルに誰が来るかで、その後の展開の明暗がはっきりと分かれてしまう。しかも今回はフランス語が達者な田中裕子だけが頼り。他の言語の輩が隣に来られちゃ、本当に困るのだ。しかし心配はいらなかった。この映画のファイナンシャルを担当したフランスのバックアップフィルムズのジョエルとオリヴィエ、プラッツォ・グラッシ美術館のスタッフ(名前を忘れた)ら、僕たちの処は不思議な事にフランス人だらけのテーブルに相成った。
a ha ! のヴォーカルに似ているジョエルに昨晩観たばかりの“Syndromes and a Century”を手放しで絶賛したら、ぜひ監督に紹介しましょう、ということになり、監督の元へ。で記念撮影、という段でちゃっかり監督の両サイドを陣取ったオリヴィエとジョエル。あれれれれれっ!? 「実は僕らはずっと前からアピチャッポンのファンだったの。そんでもって一生懸命ファイナンスしたの」ってか。お粗末様でした。こうやってアピチャッポンの夜は更けていったのでした。写真は左からオリヴィエ、監督、ジョエル。
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