2005年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、第6回東京フィルメックスにてグランプリ受賞。そんな肩書きばかりが先行していた『バッシング』がいよいよ日本でも公開される。日本人人質事件をヒントにしながらも、完全なフィクションとして一人の女性の物語を作りあげた小林政広監督と主演の占部房子さんにお話をうかがった。
本作で4度目のカンヌ参加を果たした小林監督だが、そもそもはデビュー作である『CLOSING TIME』('96)の頃に戻り、エリック・ロメールのような映画を少人数であまり緊張せずに作りたかったと言う。「今までの映画づくりとは違うものをやりたいと思いました。いつも北海道を舞台に社会から疎外されているマイノリティの男の話を撮ってきましたが、今度は自分を投影しない作り方をしてみたかったんです」。
そんな監督が今回のヒロインに選んだのは『歩く、人』『フリック』にも出演している占部房子さん。一筋縄ではいかない難しいキャラクターだが、当初のヒロイン像は少し違ったようだ。「最初は実際の事件から離れられず、どうしても上っ面のイメージでしかヒロインを作れなかったんです。でもそれでは先に進めなくなってしまった。そこで昔TVドラマの脚本を書いていたときのことを思い出して、演じるのは占部さんだけど自分がそこに乗り移って書かなければならないと気づき、あのキャラクターができてきました」。
最初に脚本を読んだ占部さんは「有子というキャラクターがとても活き活きとしていたので嬉しかったです」と語る。映画はその有子が自分の居場所を奪われ、徐々に追いつめられていく様子をすぐそこにあるかのようなリアルさで描く。「内面がきつくなってくる感じはしました。自分自身のやりたいことができないつらさは映画が終わるにつれて大きくなってきましたね」。
海外の映画祭ではバッシングの現象自体が理解できない、という反応もあったそうだ。「他人と違うことをしてバッシングされるのは日本特有のものだろうと思っていましたが、程度の差はあれ弱い者をいじめるという裏社会的なことはどこの国でもあると考えていたんです。でもヨーロッパは個人主義が徹底しているから他人が何をやっていようとあまり関係ないみたいなんですね。日本の場合は個人主義が利己主義的な意味合いと混同されているのではないかと感じました。ただ、アジアの人たちはそれについてはあまり言わないんですよ。それはやっぱり日本と同じようなことがあるからではないかと思います」。
フランソワ・トリュフォーを敬愛し、映画ならではのアクション表現を使って観客を楽しませたいと言う小林監督。『バッシング』を撮り終え、今後は本当に作りたい映画を作っていきたいと語る。作りたい映画と観客を楽しませる映画は一致するのだろうか。「映画というのはお客さんを楽しませるのが目的なんですよ。楽しませるにも色々なやり方があるじゃないですか。喜ばせたり悲しくさせたり…。その中で、考えさせるというのも楽しみのひとつなんです」。
本作のラストは敢えて明確な結末を示しておらず、まさに観た人の考え方に委ねられていると言える。「あまり映ってないんですけど、最後の有子と母親のシーンでは家の中のものがほとんどないんです。というのは有子だけでなく母親もあの団地を去って行こうとしているんです」。
有子は果たしてどんな結論を下すのか。その答えは各々の中にある。最後に占部さんから、自身やヒロインと同世代の女性に向けてメッセージをいただいた。「口に出して言わないだけで、多分みんなが経験のあることだと思います。よく考えれば些細なことなのに、自分の中にためこむとすごく重大な事件になってしまう。そういう悩みを持っている人たちに“一歩外に出てみればたいしたことじゃないよ”と勇気をあげたいです」。
『バッシング』
監督:小林政広
出演:占部房子、田中隆三、香川照之、大塚寧々
配給:バイオタイド
劇場情報:6月3日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開
(C)2005 Monkey Town Productions
衣装協力:アニエスベー(占部房子さん)