退屈で孤独な毎日を送っていたマルシア。ある日、突然奇妙な2人組みの女の子にさらわれてしまう。しかも、「あなたのことが気に入ったから、セックスしたいの」と。
これだけ聞くと「えっ!?」と思われる方も多いだろう。けれど、この女の子3人の背景や、雰囲気、そしてそれぞれが抱えている問題は普遍的で身近だ。この『ある日、突然。』は退屈な日常が突然ガラリ変わる瞬間を描き、ブエノスアイレス・インディペンデント国際映画祭で審査員特別賞と観客賞を受賞したのを皮切りに、ロカルノ国際映画祭準グランプリなど40以上の映画祭で上映され、数々の賞を受賞している作品だ。
本作は撮影時はなんと26歳、現在28歳の新鋭映像作家ディエゴ・レルマン監督によって作られた。この監督が地球の反対側、アルゼンチンから来日するというので(しかも参考資料にはデカデカとイケメンの文字!)、インタビューをさせてもらうことに…。
現れたのは割と小柄なホンワカした雰囲気の青年。挨拶がてら目を合わせると、マッチが3本くらい乗りそうな睫毛を湛えた大きな目で直視された。思わず睫毛に釘付けになりそうになるところを慌てて目を外し、インタビューを始めた。ちなみに、その朝彼が飲んでいたのはコーラ。“さすがラテンの男は違うね!”などと思いながら初来日の印象を尋ねるといきなり笑い出した。実は「来日してから2日間、取材のためにこのホテルに缶詰状態なんだよ。だから、これからもっともっと日本のことを知りたいなって思うんだよね」と笑いながら答えてくれた。
今回の映画に込めた思いについて聞いてみると、「ひと言で言うのは難しいな」としながらも、「ロッテルダムでの上映後にも同じ質問を受けたんだけど、僕は孤独だと思っていたんだ。でも、友人は愛だと言うし、もう1人は死だと言うんだよ。それらのすべてが混ざっているのが主題なんだと思うよ」と教えてくれた。さすが、奥が深いなぁと感心しきり。監督の言う主題―孤独・愛・死―のひとつひとつは丁寧にけれどサラリと描かれている。だからこそ、全く違う状況にあるにも関わらず、絶妙な感覚の一致を覚える作品なのだろう。そのことを伝えると、「観る人がどう受け取るかで映画の印象が決まってくるから、個人的には少数意見にとても興味があるんだよ」と答えてくれた。
シネマカフェ読者にメッセージをと頼むと、「こんなに離れた遠くの国で、自分の映画が上映されるということは本当に不思議で、エキゾチックな気持ちになっているんだよ。しかも、15年間くらい日本ではアルゼンチン映画が公開されてこなかったと聞いているしね。ぜひ映画を観に行ってもらって、遠い国と遠い街の女の子たちのストーリーを見て興味を持ってもらえれば嬉しいね。確かに地理的には遠いけれど、そこに描かれる感情や文化は遠いものではないと思うから」とのメッセージをくれた。
次の作品は、ちょうどカンヌ国際映画祭で上映してきたばかりとのこと。題名は『MENTRAS TANTO』(原題:その間に)で、戦争を揶揄したコメディだそうだ。ちゃっかりパンフレットをいただいてしまった…。この作品をはじめ、今後もブエノスアイレスから様々な作品を作り続ける予定だという。
まずは、独特のユーモアとアイロニカルな視点で描かれた『ある日、突然。』を観てほしい。粗いモノクロ映像で描かれるロードムービーのような本作に描かれているのは誰もが抱える“孤独”。けれど、そこから感じるのは暗さではなく、前向きな優しさなのだ。
睫毛をたっぷり湛えた目で渋谷の街を見下ろす。その先には何が映っているのだろうか? 聞いてみようかと思ったが、時間OVER。残念な思いを抱きながら、部屋を後にするのだった。
『ある日、突然。』
監督:ディエゴ・レルマン
出演:タチアナ・サフィル、カルラ・クレスポ、ベロニカ・ハサンほか
配給:ザジフィルムズ
劇場情報:7月下旬、シネ・アミューズにてレイトショーほか全国順次公開
(C)2004 ZAZIE FILMS Inc. All Rights Reserved.