秋も深まる10月中旬、毎年この季節に開催されているひとつの映画祭がある。東京国際ファンタスティック映画祭だ。1985年の第1回目以来、デビッド・クローネンバーグやダリオ・アルジェント、トビー・フーパーなどそうそうたる監督の作品を紹介してきた。過去にはあの『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督も来日している。昨年20周年をむかえ、新たな出発となる今年の開催にむけて、2002年からこの映画祭のチーフプロデューサーをつとめるいとうせいこうさんにお話をうかがった。
東京国際ファンタスティック映画祭2005は、日本でもヒットした『マッハ』の続編にあたるタイ映画『トム・ヤン・クン』がオープニングを飾り、ロシア映画『ナイト・ウォッチ』で幕を閉じる。そもそもいとうさんがタイ映画に興味を持ったのは、まさにタイ料理のトム・ヤン・クンに象徴されるようなごった煮性だと言う。「2005年の東京国際ファンタスティック映画祭(以下ファンタ)では、昨年に続きタイ映画に力を入れています。なんと言ってもジャンルを軽々と飛び越えていくエンターテインメント根性が並みじゃないんです。その場その場で一番面白いことを選んでいくので、ソフィスティケイトされていない映画本来の騒がしさがある。そのエネルギーが魅力ですね。映画監督にとってはいい修行の場になるんじゃないかな」。
“ファンタスティック”というだけあって、その語義は広い。ホラー、スプラッタ、モンスター、カルト、スリラー…またはそれらのジャンルに収まりきらない映画の魅力を救いあげるのもこの映画祭の意図である。もちろん今年も、日仏から3本のジャンル分け不可能映画をプレミア上映する【超!ストレンジ・ムービーナイト】や、先ごろ亡くなった石井輝男監督の追悼上映などディープな企画が用意されている。とはいえケイト・ハドソン主演の『スケルトン・キー』などハリウッド王道系の作品もラインナップに含まれているのが今年の特徴だ。
「一番大事なファンタらしい濃い部分を残しながら、どうやって一般の人たちにも入り口を開いていくかは意識しています。僕自身、プロデューサーとして関わる前は、あまりに濃すぎて自分が入ってはいけない場所だと思っていました。
また、いとうさんが発案した【デジタルショートアワード600秒】は一般公募による短編コンペである。3年目の今年は、昨年から始まった脚本コンペでグランプリを受賞したシナリオが、字幕とSEと音楽のみで映像化した“ワーズ・シアター”として上映される。「受賞者に賞金を出すだけでは面白くないけど、それを映画化するほどの資金があるわけでもない。じゃあどういう形で賞をとった人たちにお返しできるかということで実現した企画です。台詞はなく、字だけを見て画や人の顔が思い浮かんだりしたら夢みたいで素晴らしいんじゃないかという実験的な試みですね。応募者に対しては、ミラノ座の大スクリーンで映す予選会が売りです。やっぱり作り手の嬉しそうな顔を見るのは嬉しいし、やり甲斐にもなります。(近年ではショートフィルムがひとつのジャンルとして確立されてきたので)短編・長編の両ジャンルにまたがる監督が出てくればいいという思いもあります。せっかくなので内側から才能が巣立っていく映画祭にしたいですね」。
ファンタは昨年、長年親しんだ渋谷を離れて開催地を新宿に移した。それについていとうさんは、映画をきっかけとして文化的な面から新宿の街が変わっていくのもあり得ると語る。「新宿歌舞伎町のど真ん中でアグレッシブな映画祭をやることで、街に来る客層にも変化があるかもしれません。そういう観客たちが先端となって新しい文化を引っ張っていくのでは」。
そのほか『ヴァン・ヘルシング』と『ハリー・ポッター』を足して2で割ったような作風だというクロージングの『ナイト・ウォッチ』にも期待が高まる。また、“ふぁんた組”と呼ばれるボランティアのスタッフたちが活躍するのも名物のひとつ。そこにはファンタを「一部の熱狂的なファンだけが盛り上がるのではなく、参加性のあるイベントにしたかった」といういとうさんの願いが込められている。「【デジタルショートアワード600秒】で新人を発掘するのもいいし、『天国からのメッセージ』は若い女性にもぴったりですよ。あとはアジアの映画祭に作品を輸出したいですね。世界中の600秒のグランプリを決められるようになったら嬉しい。デジタルなら、それこそ世界中どこからでも観られるし、家にいても参加できるわけですから」。