映画『RIZE』に関しては、フォトレポですでにラシャペル監督を取り上げていたが、本作に登場するトミー・ザ・クラウンの来日情報を聞いて、どうしてもイシコ自身が会ってみたかった。
僕がここまで魅せられた男「トミー・ザ・クラウン」とは1992年ロス暴動の本拠地であるサウス・セントラル地区で、過酷な現状に苦しむ友人の子供達にクラウン(=ピエロ)の扮装をして誕生会やパーティーでマジックやバルーン、そして彼独特のクラウンダンスなどの余興を始めた。
その活動はカルフォルニア州南部全体に広がり、いつしか全米にまで広がっていった。ホスピタリティ(おもてなし)とエンターテイメントの融合であるホスピテイメントを目指している僕にとって憧れの人なのだ。
もちろん僕もホワイトマンとして、トミー・ザ・クラウンと同じ顔を白塗りにして、インタビュールームに入っていく。僕を見ると映画の中で見せたように彼は大笑いした後、すかさず
「触っていい?」
悪戯な表情を見せながら言った。映画の中で彼はクラウンメイクを施した後でパウダーをはたくシーンがある。女性はすぐに理解できると思うが、パウダーをはたくことでメイクがくずれないし、子供達が顔を触ってもさらさらしてベトつかないのである。
実は、そのパウダーを僕は忘れてしまったのだ。粉がはたかれていないメイク部分は多少、光っている。彼はそれを見逃さなかったのだ。僕は笑いながら、パウダーを忘れたことを伝え、ごまかすように彼の活動を始めるきっかけについて質問をした。
彼の住むサウス・セントラル地区は、麻薬事件や凶悪犯罪が日常茶飯事に起きる全米で最も危険な場所と言われる。ここで生まれ育つということはギャングへの道へ進むのがほとんどで、生きるか死ぬかしかない生活を余儀なくされる。トミー・ザ・クラウンの登場はそんな彼らに踊るという選択肢を与えた。彼の身体から繰り広げられるダンスはヒップホップダンスにアフリカ民族ダンスを取り入れたクラウンダンスと呼ばれるものである。彼の弟子達は、クラウンダンスを学び、そこから更に新しい形のクランプダンスを見いだしていく。日本のダンス界ではクランプダンスの方が知られているが、実はクラウンダンスから派生したものである。トミー自身はそのクランプダンスをどう見ているのだろう。
「逆に質問していい?クラウンダンスとクランプダンスを実際に見てどう違うと思う?」
僕は答えられなかった。インタビューの前日、『RIZE』のイベントで、映画にも登場したクラウンダンス派のラリーとクランプダンス派のリル・シーとミス・プリッシーが踊っていたのを見たのだが、正直、区別がつかなかった。
「そういうことなんだよね。ダンスのスタイルというのは、どんどん変わっていくものだから、少しの動きの違いでも名前は変わってくる。でも、ルーツ(胸をさしながら)は一緒だから、結局は同じものだと思っていいんだよ」
既にインタビューの予定時間をオーバーしていた。インタビューの最後はお決まりのように今後の展望を聞いてみた。でも、この映画を観終えると、今後、彼らはどこに向うのだろうとは誰しも思うはずである。
「今後も誕生会やパーティーに行くスタイルは変わらないと思う。でも、いくら広がったからと言って、さすがにホームパーティーを日本や香港までは持ってはこれないからね(笑)。ただ、世界にクラウンダンスを広めるために、バトルゾーンの世界ツアーはやってみたいよね」
そう言って彼は、コップに注がれたミネラルウォーターを口に含んだ。パウダーで覆われた唇のメイクは少しもくずれていなかった。