以前ご紹介した『ル・ディヴォース』がいよいよ公開となりましたね。この間は、欲しいバッグの話ばかりしましたが、今回はこの映画にまつわる、ちょっとまじめなファッションのお話をいたしましょ。
『ル・ディヴォース』は、『眺めのいい部屋』、『鳩の翼』などで知られる巨匠ジェームズ・アイボリー監督が、結婚によって結びついたフランスとアメリカの2家族を通して、仏米のカルチャー・ギャップを描いた現代劇。時にコミカルに、時に辛辣に、文化の違いと人間の滑稽さを豊かな洞察力によって映し出しています。登場するエピソードはどれもこれも、異文化コミュニケーション学、文化人類学の教材にできそうなほどです。
さて、人々が持つファッション哲学というのは、たいていその国の文化に深く根ざしているものですが、この作品にも仏米の違いを感じさせるユニークなエピソードが取り入れられています。それは、ケイト・ハドソン演じるアメリカ娘が、ロマンス・グレーのフランス男に、愛人になって欲しいとの暗黙のプロポーズの印として、クロコダイルのケリーをもらうというエピソードにまつわるもの。日本円にして200万円近くするというこのバックを、素敵なロマンス・グレー(古い?)から贈られ、すっかり浮かれ気味のヤンキー娘。そりゃ誰だって悪い気はしないでしょうが、この申し出をうやうやしく受け、愛人になると決めたヤンキー娘は、以来、どこへ行くにも、誰と会うにも、何を着ていてもこのバックを持って行くのです。そしてついには、オペラを観に行くときにも! そこで、ロマンス・グレーが困惑気味にやんわりと、でもキツーイ一発をかますのです。
「そのバッグ気に入ったみたいだね。素敵なバッグだ。でも、どこにでも合うわけじゃないんだよ」
そう言われて、「???」状態&ちょっとプリプリなヤンキー娘。そう、どんなにイカすアイテムも時、場所、場合を考えて持たなければ、単なる野暮アイテムになってしまうということを、彼女はここで初めて知ったのです。(フランスの上流社会に属する子供なら、こういうことは親からしっかり躾けられるという
わけだけど。)
何十万もするバーキンも、数百万もするクロコのケリーも、デザイン的にはフォーマル・アイテムにはなり得ません。こんな贅沢な感覚を、理解しろというのがそもそも無理な話なのですが。ただ、これって日本の若い女性たちにも通じる話。一生懸命に貯めたお金でバーキンを購入した者に、それを自然に理解しろというのも無理な話なのですが、「それが無理なら身分不相応なことはやめ、高級ブランドに手を出すな」というのがハイソサエティのファッション不文律。そこが、海外でブランドにたかる日本人が小バカにされている所以でもあるわけです。なぜ、エルメスをはじめとする一流ブランドが欧米では一部の人のためのものなのか。それは、そういう掟が浸透しているからなのですね。それを知らない者はとことんバカにされる社会だからなのです。それも仕方がないかなという気がしないこともないですね。貴族たちの排他的な態度は、いまいましいものであるにせよ。
とにかく、けっこうやっかいなファッション不文律。日本はかなり緩めなので、それほど恥をかくこともないけれど、海外旅行に行くと肩身の狭い思いをすることはありますよね。もちろんファッションには掟破りな冒険も必要だけど、それは基本を理解してこそできること。いつでもどこでも堂々と振舞えるだけの自信を身につけるためにも、ちょっとお勉強しておく必要は、どうやら私たちにもありそうです。もちろん、『ル・ディヴォース』は、格好の教材になってくれるのです。
本日のお買い上げ:1800円
映画『ル・ディヴォース』チケット1枚(ファッション学教材費として)